ベルファスト行き夜行フェリー(イギリス/リバプール)

 方、リバプール駅のパブで軽く夕飯をとって、マージ川の向こう側、バーケンヘッドふ頭に向かう。ベルファスト行きフェリーの船会社、ステナラインのオフィスは、地方空港のような銀色の建物だった。
 待合室から、夕日の中で船積み待ちのトラックを眺めながら時間をつぶしていると、簡単なパスポートチェックがあった。アイルランド紛争の和平を謳ったベルファスト合意によって、アイルランド島の北側のイギリス領と南側のアイルランド共和国は往来が自由になった。その反面、ブリテン島とアイルランド島では別の国境管理が適用されるため、イギリス領内の行き来ではあるけれども、出国審査をする、ということらしい。
 パスポートチェックを終えてミニバスに乗る。バスごと、フェリーに乗せるということらしい。果たして、タラップを上がって乗船するという僕の大時代な期待は裏切られて、ふ頭を飛ばしてきたバスは、勢いそのままフェリーの中に入って、エレベーターホールに横付けした。
 他の乗客―家族連れや出張のサラリーマンらしいスーツ姿の男性―の後について、客室エリアに上がる。遠目に、スリー・グレイシズ―リバプール港を代表する3つの白いビル―が見えた。いずれも、20世紀初頭、大英帝国の繁栄の末期に建てられた古いシンボル的なビル。味気ない乗船の半面、船窓の景色は旅情があった。
 パブカウンターでビールを調達する。イングランドのエールを飲むこと4日、そしてこれからギネスの島に行くことを考えると、炭酸の効いた黄色の液体がほしくなってきて、ステラ・アルトワを注文することにした。ベルギービールを飲みながらリバプール市街を眺める、というのも変な組み合わせだけれども、悪くはなかった。
 船客は、半分がトラックの運転手、半分が旅行者―ただし、個室寝台を予約している家族連れの他に、僕のような雑魚寝客まで区々―、それから少し、出張族らしいビジネスマン風の人たちといったところ。船内には小さいながらも映画館があって、「アナと雪の女王」を上映していた。家族連れはそっちに流れていく。乗り慣れているのか、運転手風の男の何人かは、荷物を広げて寝っ転がり始めている。日本のフェリーと違って、雑魚寝席というのはないらしい。早い者勝ち、こちらも適当なソファーに陣取ることにした。
 日もすっかり暮れたころになって、いきなり轟音がしてガタガタ船が揺れ始めた。出港らしい。リバプールの町が小さくなっていく。ステラ・アルトワ3杯の成果か、その日、ウィンダーミアからファーネス半島を回ってリバプールまで移動してきた疲れか、轟音と揺れの中、固いソファーを床にして、いつの間にか眠りについていた。
 翌朝、5時半ごろに目が覚めた。先に目を覚ましていたのか、隣のソファーでビジネスマン風の男が寝ぼけた顔つきで、半身を起こして伸びをしていた。こちらに気付いて、「おはよう」と声をかけて来たので、同じように返した。
 船室から出てみると、陸地が滑るように流れていた。初めて見たアイルランド島は、どんよりした雲の下、朝霧の中に緑の丘が続いている。想像していたとおりだった。



●とき
 2014‎年‎7‎月‎15‎日
●ところ
 バーケンヘッドふ頭からアイリッシュ海を渡ってベルファストへ。



●アクセス
 ステナラインはカーフェリー利用だけに限らず、旅客扱いあり。インターネットからフェリーチケットを予約して、印刷の上、当日窓口で提示した。雑魚寝のほか、個室寝台あり。
●こと
 アイルランド島への航海で気持ちの良い朝を迎える

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