朝市(マルタ/マルサシュロック)

 だ、東側に行ってない。この国の公共交通路線図を眺めながら、そう気づいた。東京23区の半分ほどしかないと言われる小さな国、気軽に行けそうなものだけれども、なぜだろうか。
 マルタ島は、首都ヴァレッタをはじめ、北側に街や名所が偏在している感はある。それでも、滞在の最初の頃は、西海岸に軸をおいて観光していたし、南側には、古都イムディーナや国際空港もあって2度ほど訪れている。東側には何があったんだっけ。路線図を眺め返す。
 その路線図は、観光客向けの地図記号がふんだんに置いてあって、南海岸や西海岸には海水浴場、島の中央部、南海岸のイムディーナから北海岸のヴァレッタにかけては遺跡が点在しているのがわかる。ただ、東海岸には、砂浜が2つと、もう一つ、プレイス・オブ・インタレスト、興味深い場所という意味の記号がある。その「興味深い場所」という地図記号の脇に、Marsaxlokk Marketと書いてある。マーケットはわかるけれども、その前の単語の読み方がわからない。路線図には、同じ名前のバス停も載っているから、どうやら地名らしい。Googleで検索してみて、「マルサシュロック」と読むことを理解した。聖ヨハネ騎士団よりも前にこの地を支配していたアラブ人やベルベル人の影響なのか、マルタの地名は独特だ
 という訳で、その日、朝一番のバスでマルサシュロックにやってきた。村は思った以上に賑やかだった。漁港に面した海岸通りと広場に、朝市の露店が連なっていて、僕のような旅行者然とした出で立ちが半分、こなれた格好のマルタ人らしき人たちが半分、ごた混ぜになっている。
 地中海の真ん中、さらに島国の漁村だけあって、魚を扱う店舗が多い。そのうちの一店舗を覗いてみる。カジキやマグロのような、この島でよく食べた魚以外にも、鮭やイカ、タコ、ムール貝と取り扱いは豊富だ。予めサクにしてあるのではなくて、二枚に下ろしたのから、客の注文に合わせてブロックにしたり、スキンレスにしたりしているようだ。そこかしこで注文の声や包丁を下ろす音がする。素朴で豪快だけれども、取り扱いは丁寧な印象を受けた。
 市場の端まで来てみると、野菜や日用品の取り扱いが増えて、ところどころ簡単なお土産屋や古着屋も出ている。魚が中心でその隣に野菜、そして徐々に雑貨類という配置は日本の公設市場的だけれども、開放的だし、青空市場の雰囲気はイギリスやドイツで見た後継とも共通するけれども、それらは蚤の市で骨とう品と古本屋がほとんどだった。わざとらしくない、生活感のある朝市というのが新鮮で楽しかった。ただ、日が昇るにつれ、観光客と、そして地元の買い出し客を満載したバスがやってきて、その都度市場の混雑度合いが増すように感じた。早起きは三文の徳、というのは東西を問わないらしい。
 市場を抜けると、静かな漁村の風景が開けていた。実は、マルサシュロックは、冷戦を終わらせたマルタ会談の舞台だったり、オスマン帝国が侵攻してきた際の上陸地点だったり、村はずれには実はヨーロッパ有数の貿易港があって、この辺を遠目に眺めたりもしたのだけれども、それはまた別の話としたい。



●とき
 2016年9月25日
●ところ
 マルサシュロック、マルサシュロック港付近



●アクセス
 ヴァレッタから何系統かバスでつながっている。プリティ湾沿いを通るルートだと、マルタ自由港や聖ルチアの塔も車窓から眺められるのでお勧め。
●もの
 マルサシュロックの朝市

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