もしかしてだけど、肉じゃがのご先祖?(イギリス/ベルファスト)

 イルランド島の滞在は、湖水地方からロンドンに戻る間の「寄り道」だったはずで、短い旅程から無理やり2日間、割き出した旅立った。せっかくブリテン島の西海岸まで来たからには、チェスターも、リバプールも、と行かなきゃ損の貧乏性、ついでに行ってやろう根性が高じてしまう。あいにく、地図の上のリバプールからは、青い線が1本―つまりフェリー航路―が生えていて、その線の先にはアイルランド島に繋がっている。結局、貧乏性のせいで、海峡を越えてしまった。
 そんな無茶苦茶なアイルランド島滞在も終わりかけているというのに、肉体的疲労はさほど感じなかった。なんということはなくて、ベルファストっ子に交じって、市庁舎前の芝生で午睡をとっていた成果だ。
 ただ、寝起きの心地よさはあるけれども、2日間見聞きしたものへの整理がついていない。北も南も、アイルランドの人々は陽気で、ビールも旨い。だけれども、1日前にダブリンで見た英領時代の名残―独立運動家を収監した刑務所だけじゃなく、町全体そこかしこに、イースター蜂起の舞台となった建物やらを見かけた―、それから午睡前に行ったベルファストの旧市街―そこかしこに、カトリックと国教会の分離壁が残っている―を見ると、「楽しい思い出」ばかりとは言えない。
 気持ちに整理がつかないまま、夕飯のことを考えた。旅行ガイドを眺めていると、ちょうど、寝ている芝生から2ブロック先に、アイリッシュパブがあるという。曰く、ベルファストで随一の老舗だ。考えるのも面倒になったので、体を起こすことにした。
 特徴的な外観から、その老舗パブ、”らしき”店はすぐにみつけることができた。らしき、というのは看板の問題。店名は「ザ・クラウン・リカー・サロン」と言うらしいのだけれども、目の前の古式然とした建物には、「リカー・ザ・クラウン・サロン」と倒置法みたいな看板が出ている。くりぃむしちゅーじゃないけれども、「阿藤快と加藤あい程違う」店にたどり着いたのでないか、と不安がよぎって苦笑いした。
 さて、飯だ。2日しか滞在していないのだけれども、アイルランド島最後の晩ということには変わりない。なにを食べようか。そういえば、アイリッシュシチューをまだ食べてない。店選びから夕飯まで、即決だったのは、やっぱり頭が考え疲れていた証拠だったかもしれない。
 肝心のシチューは、というと、くたくたになった玉ねぎ、程よく溶け過ぎず、形を留め過ぎずのジャガイモ、甘いニンジンと優しい煮込んだビールの味。どこかで食べたことのありそうな、この雰囲気。タイトルに書いておいてなんだけれども、「肉じゃがは、英国でシチューにほれ込んだ海軍軍人が日本で作らせたのが起源」という俗説も真実味が増してしまう。
 もう1日くらい、滞在してもよかったかもしれない。アイルランド島は最後の最後に好印象を残してくれた。



●とき
 2014年7月17日
●ところ
 ベルファスト、アメリア通り(大まかな住所は末尾参照)


●アクセス
 有名なヨーロッパホテルの正面、通りの向こう側にある。ヨーロッパホテル側から見ると外観ですぐわかる。
●もの
 アイリッシュシチュー

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