図書館(アイルランド/ダブリン)

 学が観光名所になっている例は、思い当たるかもしれない。イギリスのケンブリッジやオックスフォードがそうだろうし、規模は違えど、東京の有名大学の界隈にしたって、小旗を持った添乗員を先頭に中高年の集団が歩いているのを見かけるのは珍しいことではない
 ただ、大学の附属図書館や附属博物館が国を代表する観光名所、ビッグベンやエッフェル塔、コロッセオに匹敵する扱いになっている例はアイルランドぐらいかもしれない「世界で最も美しい図書館」とも呼ばれる大学図書館を有する、ダブリン大学トリニティ・カレッジは、これまた「世界で最も美しい本」と呼ばれているケルズの書を博物館に収蔵している。
 という前評判に誘われて、ベルファストからダブリン・コノリー駅に着いた朝、宿に荷物を預けると、さっそく都心に向かう。トリニティ・カレッジのキャンパスは、ダブリン城、旧アイルランド王国議会議事堂と旧税関の間、文字面だけでもわかるように、英領時代から続く都心部の真ん中に立地している。
 都心に向かう、周遊バスに乗りながら、トリニティ・カレッジってどこかで聞いたことがあるのだけれども、それはなんでだっけ、と思い出す。そういえば、ジャック=ヒギンズの小説に出てくるアイルランド独立運動家がトリニティ・カレッジの出身だったっけ。あとは、「ガリバー旅行記」のスウィフト。「世界一美しい図書館」に附帯する触れ込みの一つに、「ガリバー旅行記の作者も勉強したかもしれない」というのもあった。
 キャンパスは観光客であふれていた。年恰好や服装、カメラや携帯電話で写真を撮る仕草は、どう見たって学生や教職員じゃない。自分もその一人になって、長い行列の後ろに着く。書架はやっぱり荘厳だけれども、旅行ガイドの写真のようにはいかない。図書館の静けさはない。
 書架には索引用だろうか、アルファベットが付されている。棚ごとに、大学ゆかりのOBOGなのか、胸像がおいてあるのもかっこいい。と、「スウィフト」と書いてある胸像のところで、写真をとった。ただ、後になって分かったことだけれども、残念ながら、ガリバー旅行記のJ.スウィフトとは「別のD.スウィフト氏」らしい。
 ケルズの書のある博物館も同様に、観光名所然としていて、充実したミュージアムショップと、長蛇の列が印象に残っている。書自体については、「そんなものか、日本で見た中世ヨーロッパの装飾本より、確かに豪華だね」そんな感想を持ったのを覚えている。
 パンフレットか、旅行ガイドか、詳しい解説付きで回った方がよかったかも。そう、他人の学校を観光する際は、添乗員付きで回るのも、効率的な方法なのかもしれない。妙に、東京の大学周辺で見かける、ツアー御一行様に納得してしまった。

 キャンパスの中庭に出る。相変わらず観光客で混み合っている。図書館に押しかけ、中庭を占領され、自分のことを棚に上げてなんだけれども、トリニティ・カレッジの学生諸君は、落ち着いた環境で勉強できているのだろうか。
 余計な老婆心が浮かんだのは、自分が少し年を取った証拠なのかもしれない。そう気づいたのが最大の収穫だったと思う。



●とき
 2014年7月16日
●ところ
 ダブリン、サウス・イースト・インナーシティ(大まかな住所については末尾参照)


●アクセス
 「インナーシティ」の住所のとおり、都心部にあるため、アクセス至便。市内バスか、観光客向けの周遊バスが便利。
●もの
 トリニティ・カレッジ図書館、ケルズの書

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