ゴゾ島へのフェリー(マルタ/ゴゾ島)

 で対岸の島に渡る。3日間、遠目に眺めていた島が近づくにつれ、丘の上に教会の尖塔があって、それに街が連なっているのに気づいた。
 この表現はいささか冒険小説的だったりRPG的だったりするけれども、実体験。マルタ島の西端から、隣のゴゾ島に渡るフェリーの話。マルタ共和国という国は、「本土」のマルタ島の西に、マルタ島の3分の1くらいのゴゾ島と、さらにごくごく小さなコミノ島が連なっている。そのほかにも、セント・ポール島やマノエル島のような小さな島々があるけれども、無人島になっているか、マノエル島のように実質マルタ島と地続きになっているかのどちらか。
 つまり、マルタ共和国という東京23区の半分くらいの広さのこの国で、唯一の「地方」がゴゾ島で、この貨客フェリーは重要な「地方路線」ということになる。そのせいか、30分から1時間に1本間隔で、距離の割には大きなカーフェリーが運航されていて、海峡の往来は頻繁なようだ。
 というので、マルタ島の最西端、チルケッワのフェリーターミナルに着いたお昼時。早めに乗船して、車の船積みを眺めてみることにした。モーターが騒がしく回る音と一緒に、船首が大口を開けて、舌のように二車線分の跳ね橋を下げた。トラックや乗用車か下船して、また別のトラックやらバスやら、乗用車が乗ってくる。ゴゾ島名物の塩やハチミツを運ぶのか、マルタ島からチスク・ビールをはじめ生活必需品を移出するのか
 ふと、マルタ島の方に目をやると、泊まっていた宿―周りには海水浴場ぐらいしかない―があって、その奥、丘の上にこの日の朝登って見物した聖アガサの塔が、海峡に睨みを聞かせているのが目に入った。往時、赤い小さな塔は、陸標としても活躍したのかもしれない。そうこうしているうちに、船は舌を引っ込め、口を閉じ始める。出港のようだ。180度方向を変えて、ゴゾ島に対向して進み始めた。
 船の右舷に目をやると、コミノ島が見える。こちらにもやはり四角い塔がたっていて、こちらは聖メアリーの塔というそうだ。岩がちで、若干のペンション以外は何もない、と聞くけれども、その分風光明媚だそうだ。ゴゾ島から渡し舟が出ているということだから、ついでに行こう。ゴゾ島にも着かないうちにそう決めた。
 ゴゾ島の玄関口、イムジャールの港が見えて来た。島は、真っ青な空と対照的に、岩がちな丘陵が続いていて、ところどころ黒々した樹木が見える。丘のふもとには意外と近代的な建物が多い。かつてシロッコという季節風と一緒にやってきた、オスマン帝国やイスラム教海賊に備えて山地に村を作るのが常だった地中海世界の常に漏れず、丘の上が旧市街ということなのか、それともたまたま、交通の便のいい港側が開発されただけなのか。
 あっけなくゴゾ島に着いた。下船して、立派なガラス張りのフェリーターミナルを抜けると半分漁師町、半分マリーナといったイムジャールの港に出た。フェリーターミナルが立派なのは、日本の地方空港と同じような、振興策なのかもしれない。
 丘の上から、大きな雲がこちらをのぞき込んでいる。さて、これからどこに行こうか。まずは、ランチからでもいいかもしれない。できれば、シーフードがいい。



●とき
 2016年9月23日
●ところ
 マルタ島、ゴゾ海峡
●アクセス
 チルケッワのフェリーターミナルから30分、又は1時間に1本間隔で乗船可能。夜間は夜間で趣がある。事前にビールを買い込んでおくと吉。
●こと
 ゴゾ島への30分間クルーズ

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